先日、知り合いから教わった本を、昨日見つけて買いました。
『ぼんやりの時間』(辰濃和男:岩波新書)
作者は朝日新聞社に勤め論説委員や編集局顧問などを歴任し、天声人語などにもかかわられた方です。
今、自分が普及に取り組んでいる森林療法を普及させる際に、とても示唆される内容でした。
いくつか取り上げてみます。
*串田孫一の『無為の貴さ』を引用して
「ぼんやりしているのは人間にとって非常に大切な貴い時間である。・・・後略」
この引用文のあと続けています。
・・・前略・・・。とにかくぼんやりを体験してみること、そこから始めたい。
一番いいのは風の吹き抜ける静かな場所に座り、背を伸ばし、肩の力を抜いてみることだろう。深呼吸をする。・・・中略・・・。深呼吸は息を吐くことに重きを置く。吐いて、吐いて、さらに吐く。細く長く吐ききるまで吐く。あなたの体をまだ硬い。ゆったりとした気分になり、さらに肩の力を抜いてみる。下腹部の丹田を意識する。
深い深呼吸をしながらぼんやりしていることが、あなたにとって快い状態なればしめたものだ。・・・後略・・・。
まさに、森林セラピーで行う呼吸法そのものです。
*詩人高田護の『人間畜生考』を引用して
「ぽかんとしていると、そこら辺の景色がじつに鮮やかに見えてくる。木も、草も、小石も、空も、雲も、風も、日向も、小鳥たちも。どのように見えてくるかというと、木は木のごとく、空は空のごとく見えてくる。風の吹き様も見えてくるし、彼らのおしゃべりだって聞こえてくる。」
このあと、次のように続けています。
ぼんやりしているとき、こころは、解放されている。こころが解放されていると、空は本来の空として見えてくるし、森の木々は本来の森の木々として見えてくる。見えてくるだけではない。風は香りを運んでくるし、巨木にさわれば、その感触は何百年の命を伝えてくれる。万物に溶け込んでいる己の小ささも見えてくる。・・・後略・・・。
まさに森林療法そのものです。
森林セラピーでよく言われる、オンからオフへの切り替え、日常の生活から非日常の生活への切り替えが上手に行えると、このような状態になるのでしょう!
僕は「聞香」という言葉が気に入っていて、森林療法の導入部分で使っています。「聞香」は、室町時代に作法が確立した日本の伝統芸能の香道で使われる言葉です。
「聞香」とは、“心を落ち着かせて香木の香りに心を傾けること”とあります。この香木を森に置き換えると実にしっくりとくる。これに「ぼんやりの時間」組み合わせると素敵な導入プログラムになりそうです。
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